ミッドサマー/爆笑必至! 田舎へ行ったら……怖かった!?

ミッドサマーMidsommar/監督:アリ・アスター/2019年/アメリカ


スウェーデンの小さな村で、それは行われた。


東京国際映画祭にて鑑賞。公開は2020年2月です。
カテゴリーに悩みましたが笑えるところが多すぎたのでコメディ映画としました。グロはあります。

あらすじ:奇祭。

もはやあらすじがあらすじの体を成していないがまあよい。ネタバレ無しの一言で言ったら「奇祭」としか言いようがない。

ネタバレしています。
本文中、ネタバレの前には注意書きをしています。

おすすめ
ポイント
「田舎へ行ったら怖かった!」系映画の最新が来たというかんじ。めちゃくちゃ笑っちゃった。
恋人クリスチャン(ジャック・レイナー)や友人たちと5人でスウェーデンの田舎を訪れたダニー(フローレンス・ピュー)は、村で行われている夏至のお祭りを体験するのだが……。

ダニーはたいへん情緒が不安定な状態である。友人たちはそんな彼女を少し面倒くさい人として扱っており、若干距離を置いているものの、なんやかんやあってみんなでスウェーデンへ来る。そこは光と自然に溢れた美しい村だが、奇妙な人々が独特すぎる祭りを開催しているのだった。ダニーはあれよあれよという間にその奇祭に巻き込まれていく。

アリ・アスター監督の前作『ヘレディタリー 継承』(2018年)は、テンポがかなり早く次々に恐ろしいことが起きる怖い怖い映画だったが、『ミッドサマー』に恐怖要素は少なく、また、『へレディタリー』よりはゆったりめに話が進んでいく。村の一見のどかな雰囲気と、話運びのテンポがとても合っている。怖い部分がないというわけではないが、『へレディタリー』と比べると全くと言っていいほど怖くはない。ただそれは、観客にとって怖くないというだけで、登場人物たちにとっては恐怖の連続である。アリ・アスターはもしかしたら別にホラーが撮りたいわけではない監督なのかな、と思った。儀式が好きなのはよくわかる。

※追記
上映後のトークショウで紹介されていた、アリ・アスター監督2011年の短編『Beau』を観た。

なんだこのラスト?! 意味がわからない。わかる人教えて欲しい。IMDbのStorylineには「Although it is not made apparent in the film, it should be said that Beau once used a Ouija board.」とある。これが正かはわからないが、もし正だとしたら、アリ・アスター、ほんっとに「儀式」好きなんだな……。

場面の切り替え方が素晴らしく、時間経過の表現もセンスあるなという感じ。映像表現は、美しさと歪みがとてもわかり易い形で表されていたと思う。何が起きるかは絵(これはルックという意味ではなく「絵」そのもののこと)で教えてくれる親切設計。すごい優しい。あれは何だったの? という部分もいくつかあるが、たいていのことは絵で先に教えてくれている。ルーン文字が出てくるのだが、間違いなくこれにも意味がある。私はルーン文字には明るくないし、ググった付け焼き刃であれこれ言うのは危ないのでやらない。ちょっとググってはみた。みたが、わからなかった。わからないことはわからないと言ったほうが誠実だと思う。

へレディタリー』が恐怖の連鎖を描いていたのであれば、『ミッドサマー』は笑いの連鎖を起こしていた。なんか動きがヘンとか、村人たちの行動の面白味とか、グルーヴ感とか、言語化しにくい(そこを言語化してこそブログ書く意味があるんじゃないのというのはともかくとして)笑いが散りばめられている。最初シンとしていた劇場内は、クライマックスに向かうにつれあちこちで笑いが起き、とあるシーンでは爆笑に包まれた。誇張ではない。あれは笑っちゃうよ。怖いと思う人もいるのかな。

特筆すべきは、ある役割を持ったおじいちゃん、ビョルン・アンドレセン。そう、『ベニスに死す』(1971年)の美少年だ。まさかあの美少年が……! あんなことに!

ひとつ、ストーリー上のネタバレにならない範囲のトリビアを。この映画には「9」が頻繁に出てくる。映画の冒頭で表示される電話番号は9桁まで。祝祭は90年ごとに行われ、村人が信じている生命のサイクル(日本人になじみやすく言えば厄年みたいなもの?)も9の倍数だ。ある役目を託される人数は9人、祭りが行われるのは9日間、そしてタイトルの『Midsommar』は9文字である。この、9という数字は、北欧神話に登場する9つの世界、ユグドラシルに由来している。それを表すために、巨大な木が出てくる。

※以下ネタバレを含みます。

クッションとして予告を置いておく。



一言でネタバレしてしまうと『ウィッカーマン』(1973年)である。ポスターや先に出されていたスチルを少し見ただけの状態でも「これ『ウィッカーマン』っぽいんじゃないのかなあ」って思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。性的なシーンもあるしさ。
クリスチャンがクマの皮を着せられているシーンは、『ウィッカーマン』(2006年)でニコラス・ケイジがクマの皮を被っているのと非常に似ている。言うまでもないが、2006年ニコラス・ケイジの『ウィッカーマン』は、1973年『ウィッカーマン』のリメイクである。

ミッドサマー』独自の要素としては、ドラッグである。ドラッグ映画にカテゴライズしようかと思ったくらいにドラッグが出てくる。主人公らは村についてすぐ、幻覚キノコを渡されてホイホイ食べてしまう。まず最初に笑ったのはここで、キマってしまった彼らがポカーンとした様子で座っているのがもう面白い。ドラッグはその後も何度も出てくる。俳優陣のラリ演技が見事だった。目つきを見れば、キマっているのかシラフなのかがわかっちゃうのだ。そして映像の優しさがラリを加速させる。キマっているときには画面内のなにかが必ずぐにょぐにょ動いている。この映像表現をガイドとして観ると、ラストシーンではぐにょぐにょがなかったように思うので、つまりダニーはシラフの状態であの表情を浮かべていたのだ。

ダニーはドラッグの効果によって、自分の身体が植物に変容する幻覚を何度も見る。手の甲から草が生えたり、足が草か根のようなものになったり。また、かぶっている花かんむりの中の1輪の花は、まるで呼吸するかのように動いている。そして最後に彼女は村人たちの手によって、全身を花で覆われる。これは彼女が、コミュニティーに取り込まれることを示唆している。

※追記
相互フォロワーさんとDMで話していたら意見が一致したので書き留めておく。陰毛入りミートパイがふるまわれるシーン。「絵」から読み解けば女の子の陰毛だが、肉についてはもしかしてもしかするとマーク(ウィル・ポールター)の肉なのではないか。考えすぎか?

アメリカでトラウマレベルのしんどい経験をしたダニーは、さきに書いたように情緒が大変不安定である。恋人に依存しすぎるところも含め、彼女の様子は生きづらさとして描かれている。彼女は自分が面倒くさい人物として扱われていることにも気づいている。だから幻覚キノコを勧められたとき、最初嫌がったが場の空気を読んで食べたのだ。どんな意識変容が起きるかもわからないもの、バッドトリップしてしまうかもしれないものを、心の不安定な人が摂取するのは恐ろしいことだ。実際、マークは直後にバッドトリップしていた。自ら進んで食べた人ですら、ああなってしまうのだから……。
そして、恋人が他の女とセックスしているところを目撃し、嘔吐する彼女の苦しさは想像に難くない。例え村人に仕組まれた望まないセックスだったとしても、そんなことは彼女には関係ない。

彼女が最後に見せる表情、これは「居場所を見つけた」ということなのだろう。彼女はまず間違いなくあの村にとどまる。たとえそれが一般社会と断絶した世界であったとしても、もはや彼女には失うものがないうえ、村にいれば自分を受け入れてもらえる、ただ「居る」だけで女王として受け入れてもらえるからだ。彼女はこの村で自分の役割を見つけた、そう思うとこの映画はハッピーエンドだろう。女王の写真がズラリと並んでいるシーンのなんとなく不穏な感じを思うと、ダニーを待ち受けているのは必ずしも幸せな結末ではないかもしれないが、ともあれ、ラストシーンの時点では彼女は幸せなのだろう。

最後、ネタバレありのトリビア。アパートでスウェーデン旅行について話しているシーンのこと。クリスチャンの横に置かれた冷蔵庫の上に、『オズの魔法使』(1939年)のスケアクロウの写真(絵かもしれない)が飾られている。スケアクロウは火を恐れている。クリスチャンの退場時、彼の周りにはカカシのように藁を詰められ木の枝で飾られた死体が置かれ、そして火を放たれる。アリ・アスターはインタビューで、「『ミッドサマー』は、変態のための『オズの魔法使』だ」(“It’s a Wizard of Oz for perverts.”)と言っている。私は英語があまり……なので「perverts」を単純に「変態」と直訳したが、他に込められる意味があるのなら教えて欲しい。

※追記
Weblio英和辞書で「pervert」の意味を調べたら、
  1. 邪道に陥った人; 背教者.
  2. 変質者; 性欲倒錯者.
とあった。なるほど、ということはアリ・アスターの発言については、「変態」でなく「背教者」の方の意味か。先に調べてから書けばよかったね。

これは、ドロシーが元の家に帰らない(本当の家を見つけたとも言える)『オズの魔法使』だなと思う。レンガの道も、ルビーの靴も、フライングモンキーも出てこないけれど、ケシの花畑で眠ってしまう(=アヘンでラリってしまう)ドロシーが、目覚めることなくそのままケシ畑に残り続けたような感じ。

へレディタリー』『ミッドサマー』と、まだ2作しかアリ・アスターの長編映画を観ていないが、次回作も面白かったら、私は一生アリ・アスターについていこうと思った。ついていかせてほしい。次も面白い映画をお願いします!

※追記
検索していて見つけたファンメイドのポスターと公式のポスターを並べておく。クリックで拡大。



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