インサイド・ヘッド/主語を大きく出来るのは、なぜか。

インサイド・ヘッド

インサイド・ヘッドInside Out/監督:ピート・ドクター/2015年/アメリカ


誰にでも共感される物語として成功できる理由について


TOHOシネマズ新宿 スクリーン4 G-9 2D字幕で鑑賞。
見たい映画はなるべく公開直後に行く派でしたが、諸々の事情により周回遅れとなりました。

インサイド・ヘッド

あらすじ:環境が変わったらストレスでつらい。

11歳の少女ライリー(声:ケイトリン・ディアス)は、生まれ親しんだミネソタからサンフランシスコへ引っ越すことになり、ふさぎこみます。

ネタバレはありません。

お父さんの声がカイル・マクラクランなのでワーイって言っていたらお母さんの声がダイアン・レインで、うおおとなりました。すごい夫婦だ。


おすすめ
ポイント
おそらく誰が見ても「いい映画を見た」と感じるのではないかしらんと思いますね。じゃあなぜそう思えるのかなという話をしたいと思います。
鑑賞直後の感想がこれ。良すぎると語彙が乏しくなるのはよくあることで……。

キャッチコピー「これは、あなたの物語―」というの、似たような映画が去年あった気がしますが、忘れましたんで置いといてですね。このように、「映画の登場人物を主語とする」のではなく「あなた」と言い切ってしまう、イコール「すべての人」ということになって、これは少し危険なときもあるわけです。

人は個人で考え方や経験が異なるため、普遍的なキャラクターを描いていても共感できないときは多々あります。普遍的であればいいというものでも、もちろん、ないですよね。観客に共感させようという意図が少なからずある場合(『インサイド・ヘッド』には、そうした意図があるだろうという前提で)、主人公である「人物」を観客に寄せるには、考え方や経験などをおもに取り上げるより、人ならば当然持っている「基本的な感情」をメインに据える、という手法は非常に有効と思うのです。

ライリーの感情たちは、個々の身長や行動が違います。これはライリーの性格をそのまま反映していると言えます。「怒りっぽさはほぼなく、やや臆病ではあるがイライラすることもあまりない。楽しいことを好み、悲しいことはつねにつきまとうが、楽しさの影に隠れている」。
一方でお父さんお母さんの感情たちはサイズが統一されており、メインに置かれる感情もライリーとは異なります。彼/彼女は大人であって、ある程度感情を制御出来ている。お父さんがライリーを叱るシーンでの「怒り」の行動から、その断片が見られるかと思います。

エンドロールで現れる他のキャラクターの感情については、ライリーと同年代であっても同じサイズだったりもするので、「大人だから」が当てはまらないにせよ、その行動の違いによって人物の性格の違いを反映していると捉えて良いでしょう。そして猫はとにもかくにも臆病な生き物である。かわいい。

ライリーが抱える問題は長い人生のうちからしてみれば比較的軽微なものであり、彼女の身に起きていることをなぞってゆくと、他者から自身の存在・人格・行動をはっきり否定される、嘲笑されるような出来事は起きていません。彼女は疎外感や挫折、失敗を経験しますが、それは本人の視点からのみ描かれ、クラスメイトや友人、教師たちから彼女への直接的なアプローチはないのです。すべては自分の中の問題であるという、この映画が持つある面での主張は、ここに表れているでしょう。他者が過剰に関与してしまうと物語の軸がぶれ、最終的な問題の回収が難しくなります。

家族愛や友情などに物語の回収を委ねなかった点においても同じで、問題解決に他者の存在を明確に置いてしまうと、親密な関係性を持つ他人がいない人を排除してしまいかねません。家族の存在は大きく扱われるものではありますが、それはライリーが行動を起こすきっかけとなったものが家族の事情であったからで、これは自在に他のものへ置き換えることも可能だと思うのです。

ライリーの性格、行動、経験が「自分」とはまったく違っても、潜在意識下にある恐ろしい物の存在であったり、思い出を忘れていくことであったりは、明確に「誰にでもあるもの」と言えると思うんですね。また人によって、イライラしていることの方が多かったり、いつも悲しみにくれていたり、という性格の違いはもちろんあるものだ、というのをサブキャラクターの感情たちで表現している。

鑑賞直後の感想にちらりと書いた「愛犬が死ぬ映画」は、悲しみの感情が「好きだ」と言うものです。
これについては物語中に2回出てくるため印象に残ったのですが、「悲しいものが好き」ということもあるわけで、原題『Inside Out』が持つ、もう一つの意味はここにあるのかなとも思います。一つの意味については物語中で明かされるものですので触れません。そしてまだ他にも意味はあるのでしょう。

これらによって、「すべての人」という非常に踏み込みづらい危険な道への障害物をあっさりと取り除き、多彩な映像表現や冒険譚としてのエンターテイメント性も確保しているという点で、『インサイド・ヘッド』は「ある少女の成長物語」の域を超えられているのだと思います。

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