アリスのままで/さようなら、わたしのすべて

アリスのままで

アリスのままでStill Alice/監督:リチャード・グラツァーワッシュ・ウェストモアランド/2014年/アメリカ


ジュリアン・ムーア様がわたしの後頭部をオスカー像でブン殴ってきたから痛い。


新宿ピカデリー シアター3 D-15で鑑賞。原作未読です。
本当につらいので、誰にでもオススメ! とは言いづらいですがオススメです。

アリスのままで

あらすじ:若年性アルツハイマーになりました。

言語学者のアリス(ジュリアン・ムーア)は、夫(アレック・ボールドウィン)と、すでに成人した3人の子供たちを持ち、幸せに暮らしていましたが、突然調子が悪くなりました。

※ストーリー上のネタバレはありません。家族の事情について書いているので、ある程度まではわかってしまうかもしれません。それでもジュリアン・ムーア様のフルスイングを食らうことには変わりがありませんので、問題ないかとも思います。家族についての前には注意書きをしています。


おすすめ
ポイント
序盤のジュリアン・ムーア様の美しさはたまらんです。映像表現が混乱ぶりと病気の進行度合いを表していて、美しいのに、どよんとしてしまいます。
ざっくりしたあらすじは、いっそこの一連の絵で事足りるのではないかと思いました。

宣伝が悪いのではないです。こういう売り方しか無理ですからね。やや出尽くした感があるテーマにジュリアン・ムーア様が挑むということは、脚本がよほど魅力的だったのだろうなとか、思うわけです。
そして、家族との感動の絆と愛が美しいという話でもないのだよね。あとで書くよ。

ストーリーの流れを最初に引用した画家の絵で説明すると、右上(3枚目)から左下(4枚目)への移り変わりが、ものすごくあっという間で激しくて。2枚目で最初のビデオレター、3枚目あたりでスピーチシーンだと思っていただいて。4枚目あたりはほんとうに、見ているのがしんどいです。ここまで、出来なくなってしまうのかと。言語を専門職にしていた人が、徐々に単語を失い、主語をも失っていってしまう。
彼女にとって言葉を失うことはアイデンティティの崩壊に直結するのです。

5枚目、アリスはその場にいるけれども、メインが彼女からやや外れて、家族の話になります。
基本的に「アリスがいない場所で、家族がなにかをする」というシーンはありません。

※ここから、家族についての具体的な話をします。若干のネタバレが含まれます。

アリスのままで

夫(アレック・ボールドウィン)はアリスの変化をもっとも身近で体験する人物であり、また、医療関係者という職業柄、アルツハイマー症に対する理解もある。ただそれは、病気に対する理解度であって、実際に患者と生活するとなると、話は変わってくる。

働き盛りの今、妻の介護をするために仕事を辞めたり休暇をとったりするわけにはいかない。夫婦の生活がかかっているしね。

そこで彼が出した提案はアリスに却下され、また、アリスの願いを叶えることもないのです。


アリスにとっては最後だが、彼個人としての人生がまだまだ続く、立ち止まっているわけにはいかないし、アリスに言われた一言も事実なのでしょう。聡明だった妻から知性の光が消え失せていく様子を目の当たりにし続けるのには耐えられない。それを「愛がない」と責めることはできないと思います。

しかし5枚目のシーンで彼がアリスの思いを代弁するときは、その場にいる家族たちにとって都合のいいように話していると思えます。アリスは発症してから他人と関われないつらさについては言いますが、他人に迷惑をかけたくないとは言っていないはずです。彼が嘘をついているというわけではなく、そうであってほしい、と思いたい気持ちが出たのでしょう。

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次女リディア(クリスティン・スチュワート)は他の家族から離れて暮らしており、母親や長女との関係はあまりよくありません。

彼女にとってアリスは「口うるさく娘をコントロールしようとする母親」であり、発症してすぐは「病気を理由に自分の要求を通そうとする人」です。
しかし、アリスがマイナスの感情をそのままぶつけたり、また逆に、アリスがなんとかして良好な関係を築こうと努力できる相手はリディアだけのようにも見えるのです。

そしてリディアは、離れて生活していながらアリスの病状をかなり把握している。「誰もいないのに紅茶入れているの?」とスカイプで聞くシーンはそれが顕著に表れているなと思います。


リディアはアリスの病状の、とくに「感情が悪い方へ激しく動く」部分を見ている。受け入れているかはともかくとしてね。今までもうんざりな母親だったし、病気になったらもっとうんざりで面倒くさいが、見捨てることはできない。話は少し前後しますが、きょうだいの中では、一番遠くに住んでいるリディアだけが、病状の進行したアリスと連絡を取り合っているんですね。

スピーチ原稿へのアドバイスをするシーンはとてもよくて、リディアは「母親が、自分自身について、どこに自信や誇りを持っているのか、なにを失いたくないのか」を知っているため、意見を出す時に少し迷いを見せるんです。それは今までの母娘関係があった上で知り得たのでしょう。
切ないなと思うのが、リディアはスピーチを聞いていないことです。スカイプでのやりとりはリディアとアリスのみしか知らず、今はもう、リディアの心の中にしか存在しません。

リディアはおそらく、自分が家族の中で落ちこぼれているのを嫌というほどわかっている、わからされてきた、とも言えます。それでも自分には夢がある。やりたいことがあるのだから、好きにさせてほしい。
それにしても、「頑張ってるのはわかるが大根芝居だな」と見える演技を出来てしまうクリスティン・スチュワートはすごいですね。

アリスのままで

長男トム(ハンター・パリッシュ)は、ほぼ空気です。付き合っている子を連れて来たり、イベントごとにちょっと顔を出したりする程度です。

あのスピーチ、よかったし」などと言うのを見る限り、彼にとって母親の病気は現実味があまりありません。あの場でスピーチについて話すのは、彼にとってアリスは「たまに会うと、ちょっとずつ病気が進行している母」であって、家族会議が行われるほど深刻な状態になっているという認識が薄いように思えます。当然のように、彼は母親の介護をする気など、毛頭ありません。


アリスのままで

長女アナ(ケイト・ボスワース)は結婚しており、アリスとの関係は良好です。ふたりでアプリのゲームをやっている。ずっと日課だったのでしょう。

しかしアナは、アリスから少しずつ離れていきます。
その理由はすべて、仕方がないと思うんです。彼女は子供を作ることに対して大いに悩んだだろうし、妊娠して大変なときにゲームやっている場合じゃないし、やってはいたがアリスが忘れているかもしれない。

彼女は自分が受け継いでしまったものについて悩みもしただろう、それでも生む決意をした子供がいるわけで、アリス自身が悪いわけではないから母親を責めることはできないが、複雑な思いはもちろんある。


子育てと仕事と介護を一手に引き受けることは出来ません。あまりにも重荷すぎる。いくら彼女の夫が支えたとしても、無理でしょう。子供を産んですぐに仕事復帰すると言っているあたり、彼女は自分の仕事に思い入れなどがあるのだろうし、自分と夫と子供、という「自分の家族」を大切にしたいのでしょう。

母親への愛憎と病気への戸惑いが、ときおり彼女の表情にうっすら表れます。それは嫌悪感にも近い何かであったりします。病気のことを知って真っ先に涙を流した彼女でしたが、たぶん、あの一本の電話からアナの気持ちは大きく変化したのでしょうし、それは仕方のないことです。

自分の人生を好きに生きたいと願う、その「人間として当然な感情」が、アリスの発症をきっかけとして、見事なまでに家族らの「エゴ」として浮かび上がってきてしまう。これは家族の物語ではあるが、みんなで仲良く協力し合って病気のお母さんを助けましょう、という、観客にとって美しく心地よい物語として「感動」できないところへ収まる形で打ちのめされるラストが待っております、おすすめです、覚悟してお臨みください。

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アリスのままで(2014 アメリカ) 原題   STILL ALICE 監督   リチャード・グラツァー ワッシュ・ウェストモアランド 原作   リサ・ジェノヴァ 脚本   リチャード・グラツァー ワッシュ・ウェストモアランド 撮影   ドニ・ルノワール 音楽  
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