還暦の母にスマホアプリ「Filmarks」を使わせてみたよ

還暦の母にスマホアプリ「Filmarks」を使わせてみたよ

母が映画をよく見るひとだと知ったのはわたしが30歳を超えてからのことで、思えば子供の頃一緒にフェデリコ・フェリーニの映画を見て「よくわからない」と言っていた気もするし、「震える舌」や「あゝ野麦峠」を見てガタガタ震えるワゴンや、くちにつめこまれる蚕にビビっていた気もする。
逆に言えば、それくらいしか思い出せないほど、母とは映画の話をしなかった。ともかく、母が映画をよく見る人であるのは確かで、見ている本数だけ言ってもわたしとは比べ物にならない。

ところでわたしは何年も実家に帰っていなかったのだが、ちょっとした家族会議を開かねばならずそれも1年以上放置したため、先日ようやく重い腰を上げて帰省することにした。叱られるのがわかっていて向かう場所ほどしんどいものはない。逃げ続けた自分が悪いんだから何を言われても正座して聞きましょうと覚悟していた。

それでも帰ってみれば実家なのだしと思っていたのだが、いつのまにやら大幅なリフォームがなされており、もはや見知ったあの家ではなかった。うわあ。他人の家だ。落ち着かない。


落ち着かぬまま食事をし、父親の「ところでお前」を皮切りに家族会議が始まった。会議というかもう裁判だった。こちらに弁護士はいない。「これからどうするつもりや」「いつまでも親は生きとらんで」「お前なんか誰ももらってくれんわ」「こっちは心配して言っとるんや」という想定内の冒頭陳述から、「東京に住むのをやめて実家から名古屋まで働きに出よ」と求刑されるまでわたしはうなだれ続けた。待て、待ってくれ実家に戻るのは無理だ。無理です。しかし言い返すのもままならぬまま、父は満足して自分の書斎に引きこもってしまった。

やばい。もう母に取り入るほかない。最終陳述のネタとして思いついたのが、映画だった。
なんでもいい、とりあえず話題を変えたい。裁判の話はそれからだ。

母は新しいもの好きでそれは母方の祖父から引き継がれたと思っている。父はネットにほぼ興味がないようだが母はFacebookにアカウントを持っており「最近『いいね』してくれない」と言うような人だ。アカデミー賞授賞式のときには実況もしていた。これはなにか新しいおもちゃを与えてみよう。どうなるかわからないけれど。

前置きが長かったが、ここからが本題です。
還暦の母にスマホアプリ「Filmarks」を使わせてみたよ

「お母さんさ、最近なんか見たの? 映画」
「あれ見た。飛行機で。賞とったやつ」
「『フライト』?」
「じゃなくて飛行機で見たの。あれ、『リンカーン』、
 英語だし眠いしほとんど子守唄状態よ〜」
「あとは?」
「『ランゴ』、カメレオンの! クリント・イーストウッドのパロディあったよね!」
「あー、あのさーそういうの書いといたらいいじゃん」


最初はブログを立ち上げさせてみようと思っていたが、さすがに手順が多すぎて面倒くさい。初期設定やってるあいだに母が飽きる可能性もある。ので、DLして自分のTwitterアカウントでログインし、ちょっといじってみただけで放置していたスマホアプリ「Filmarks」を使わせてみることにした。

わたしは自分のiPhoneを人が触ることに対してさほど抵抗がないので(ロックもかけてない)、アプリのプロフィールを変更し(ここのあたりちょっとゴタゴタするが割愛)、そのまんま貸した。


還暦の母にスマホアプリ「Filmarks」を使わせてみたよ

母・和子(60)、アイコンは飼い犬のビビちゃんです。

「で、これどうすんの」
「とりあえず検索してみたら」
「検索ってどっからするの? タイトル言うからやってよ。…あー、わかった。自分でやるわ。おかーさんこういうの得意やもん」


知ってる。わたしのFacebookアカウントもTwitterアカウントも、調べるの早かったよね…。ブログ教えてるからそこから行ったのかもだけど、Twitterはフォローされたときさすがにテンパったよね…。

「この、+ってなに?」
「わかんない。ふぁぼみたいなもんじゃないの」
「ふぁぼって何」
「いいね みたいなやつ」
「はいはい。目はなに?」
「わかんないから押してみたら」
「あー、こっから書けるんや。
 ちょっとやってみるわー」


飲み込みの早い母がiPhoneをいじっているのを見て、これはもうほっといたらいいやと。母が、これ見たことあるこれ知ってるなどと言うのをフンフンと流し聞きしつつ、とりあえず使い方すぐ覚えたみたいだし興味津々のようだし、裁判の話は逸らせたようだし、とりあえず今後の自分の身の振り方をだな…。
いやー、完全に他人の家になった実家で暮らすのとかほんと無理だし父親を説得するのも大変だし、名古屋で仕事って言ってもどう探せばいいかわかんないし片道1時間以上かけて出勤とか…っていうか東京離れる気いっさいないしさ、どうしようか…と酒を飲みながら思いを巡らしていた。

小一時間、いや、もっと経ったそのとき、聞き慣れた音がした。
これあれだ。Lから始まる緑色のやばいやつだ。しかもわたしは、プッシュ通知に相手からのメッセージが表示されるようにしている。しまった。しまった…。

「ん? なんか出たわ」
「ちょっごめ」
「……」
「ごめん返して」
「…へー、あー、なるほどねえ、そういうことやったん」
「ごめんなさいiPhone返してください」
「はいはい。なんだあんたさっさと言やあいいのに」
「…いやちょっと…言いづらくて…」


いろいろ見られてしまったようなのでわたしも腹をくくり、自分の現状をぽつぽつと話した。その内容が書けないので、読んでいる方にはなんのこっちゃという感じでしょうけれど、すみません。

「とにかくわかったわ。先のことはわからんけど、おかーさんはとりあえず安心したで。
 だぁいじょうぶお父さんにはうまく言っとくから。ちょっとー? おとーさーん!」


ぽいっとiPhoneをわたしに返して、母は父のいる書斎へ行ってしまった。父の「はぁ?」「なんやそれ」「そんなら別にええわ」という断片的な声だけ聞こえてくる。なんかわからないけど、いやわかるけど、とにかく、戻ってきたiPhoneはあの緑色のアプリが開いており、いろいろと見られたことは確かで、その内容によって、少なくとも母にはにある程度の安心を与えたようで…。

結局、母が『うまく言っ』てくれたおかげでわたしは求刑どおりの実刑を逃れ、なんとなくぼんやり言いくるめた感満載のまま、実家をあとにした。駅まで車で送ってくれた父が最後に言ったのは「まあ身体には気をつけなあかんよ。とにかく、うまくやれ」だった。ほぼ無期限の執行猶予、これをもって判決とする。閉廷。

駅のホームで今回のことを反芻していた。叱られるのはわかっていた。わたしが悪いのもわかっていた。最悪、実家に帰ることになるだろうとも思っていた。ああ、でも、この場所では無理だ、やっぱり無理だ。さようなら、他人の家。わたしの帰る場所はここではない。少し寂しいけれど、もう東京以外に居場所はないのだ。

還暦の母にスマホアプリ「Filmarks」を使わせてみたよ

なんてしんみりしつつ、一方で、これはブログに書きとめておきたい、と思っていた。しかし家族会議の具体的な内容も、Lで始まるあのアプリで何が送られてきたのかも書けない…。みなさんの察しの良さに頼る他ない…。

うーむ。まあいいや。とりあえず、母が書いた映画レビューを見てみる事にした。

ブリキの太鼓
封切り当時に見て衝撃受けました。なによりオスカル役の役者は一体どういう人だ!

…あれっ、超当たり障りない…! わたしの母とは思えない当たり障りの無さ! ほかにも「わたしを離さないで」「チェンジング・レーン」のレビュー書いてありましたけれど、どれも当たり障りなさすぎて逆にびっくりしました。わたしと母は性格が似ているので、もっとこう、極端で地雷的な燃えやすいことを書くかと思っていたのですが…。


わたしのTwitterアカウントで急遽作った母のプロフィールはこのまま残しておきます。母は自分でこのアプリを使ってみると言っていたので(面白かったらしい)、探してみてください。たぶん名前はそのままです。わかんないけど。ちなみに(なににちなんでいるのかわからないが)、母が一番好きな映画は「地球最後の男 オメガマン」だそうです。わたし見たことないや…。

JUGEMテーマ:映画

最後になりましたが、このエントリにはひとつ嘘が含まれています。Happy April Fools' Day!
この記事のトラックバックURL

※記事の内容に関係のないトラックバックは削除する場合があります。
※トラックバックの反映には時間がかかる場合があります。
※リンクのないトラックバックは反映されません。

トラックバック
おじいちゃん映画
記事検索

現在1027件の記事があります。

最近の記事
プロフィール
ナイトウミノワ

ナイトウミノワ

twitter flickr facebook instagram

映画と球体関節人形が好き。SF映画とコメディ映画、アクション映画、おじいちゃん俳優好き。

カテゴリ
RSS
ブログの内容を気に入って頂けましたら、RSSリーダーの登録をよろしくお願いします。
RSS
おすすめ映画
月別アーカイブ
リンク
その他
無料ブログ作成サービス JUGEM