モールス/「ぼくのエリ 200歳の少女」ハリウッドリメイク版が、背負ってしまった宿命。

モールス(Let Me In)

モールスLet Me In/監督:マット・リーヴス/2010年/アメリカ・イギリス


リメイクであるがゆえにつきまとう、言いようのない違和感。


モールス(Let Me In)ぼくのエリ 200歳の少女」のハリウッドリメイク版です。ヴァンパイアを追う街の人が警官になっており、シーンの順序も変えられていますが、大幅な変更というのは見られません。街の人たちのエピソード(猫ちゃん含め)と父親に会うシーンはゴッソリ削られていますが、それも大きな問題ではないですね。主人公2人に焦点が絞られて、わかりやすくなっていますし、リメイクとしてはよく出来ていると思います。

あらすじ:隣に引っ越してきた少女は、吸血鬼でした。
おすすめ
ポイント
「ぼくのエリ 200歳の少女」を見たことがない人にはおすすめです。でも、やっぱり、オリジナルのほうがいいです。原作は読んでないのでわからなくてすみません。

ネタバレしています。オリジナルのネタバレもあります。ご注意ください。

おっさんについて


モールス(Let Me In)物語は、どんくさいおっさんが病院に運び込まれるところから始まります。オリジナルではこの事件は中盤に起こりますが、冒頭に持ってきたことにより物語に引き込む力が出てとても良いと思います。

オリジナルではHåkan(ペール・ラグナー)、リメイクではトーマス(リチャード・ジェンキンス)。オリジナルでは、どこか殺人を犯すことにためらいも感じます。リメイクに足りなかったのはこのためらいくらいで、ほかはほぼ同じかと思います。
モールス(Let Me In)ただ、特殊メイクに関しては、残念ながらリメイクはオリジナルに及びませんでした。技術的に優れているはずのハリウッドで、この差は非常に残念です。

また、おっさんとは関係ないですが、女性の人体発火シーン。オリジナルでは本人が望んでカーテンを開ける、リメイクでは事故なんですね。看護婦とばっちりでかわいそうですね。吸血鬼になってしまったことの絶望をオリジナルでは表現していた。自殺か事故かの差は大きいです。

オーウェンとオスカーについて


モールス(Let Me In)主人公はオーウェン(コディ・スミット=マクフィー)。オリジナルではオスカー(コーレ・ヘーデブラント)。

オスカーが「Pig」と罵られるのに対し、オーウェンは「Girl」と罵られます。男の子を女の子と言っていじめるこれは、アビーが「Girl」ではないことを間接的に表していることになると思います。
いじめっ子同士の力関係を示す描写はありませんが、そのぶん主人公の敵としてハッキリ描かれていることになるのではないかと思います。
モールス(Let Me In)リメイクでは両親はまだ離婚していない、これは家族がぎりぎりのところで関係を保たれており、糸が切れる寸前であることを表わしています。

オーウェンの母親は、ほとんど顔が映らず、また父親とオーウェンが共にいるシーンもありません。これはオーウェンの、家族との断絶、孤立を現しており、最終的に彼が家を出てしまうことの説明にもなっています。糸が切れてしまったんですね。

外見に関しては、オーウェンは普通の子ですので、これでいいと思います。むしろオスカーが美しすぎたのかもしれません。
モールス(Let Me In)オーウェンはマスクをかぶってナイフを持ちます。このマスク、おっさんなんですね。リチャード・ジェンキンスの顔なんです。オーウェンが、いつか、おっさんのようになる、刃物を持って人を殺すことになる。おっさんの最期を思うと、オーウェンの未来はけして明るくはないということになります。

アビーとエリについて


モールス(Let Me In)吸血鬼アビー(クロエ・モレッツ)。オリジナルではエリ(リーナ・レアンデション)。

エリはどことなく不気味で、不健康でした。ときおり見せる恐ろしい表情、スターではない役者が演じていることも手伝って、不審者っぽさ全開でした。リーナ・レアンデションはやや鼻が大きく、どこか中性的な雰囲気もあるんですね。

アビーの場合、これはほんとうにどうにもならないことですが、やはり、クロエ・モレッツの存在感は大きすぎました。「わたし、強いの」みたいなセリフを言うところは、ですよね…と思ってしまいます。どうしてもヒットガールの姿が頭にちらつくのです。「(500)日のサマー」でも、クロエ・モレッツは気の強い妹を演じていましたから…。
モールス(Let Me In)また、彼女の外見ゆえに不審者っぽさが軽減され、隣にかわいい女の子が越してきたよ、というように思えてしまいます。ちらっと女の子ではないような表情も見せますが、やはりどうしても女の子なんです。いや、これは、例のシーン(後述します)がないので、女の子っていうことでいいのかなあ、とも思います。

クロエ・モレッツは演技がうまいし、本当に彼女が悪いわけではないんです。わたしがクロエ・モレッツをクロエ・モレッツとしてしか見られないことに問題があるのでしょう。

ヴァンパイアの表現について


モールス(Let Me In)アビーは吸血時に目が白くなり、顔も醜くなります。エリは暗闇で瞳孔が縦になる描写はありますが、顔の歪みかたはさほどではありません。動きも、エリは人間の動きの範疇をやや超えたくらいでした。アビーは明らかに人ならざる者の動きをします。クライマックスのプールも、どうもやりすぎなんです。

オリジナルくらいの抑えた表現であったから良かったのに、と思います。ホラー映画としては抑えた方なんですが…。これを、ホラー度が上がって良いと受け取ることも出来るでしょうから、好みの問題かと思います。わたしは、やりすぎ感が逆に平凡な描写に見えてしまって残念でした。

オーウェンとアビー、オスカーとエリについて


モールス(Let Me In)オーウェンはよその家のカップルを望遠鏡で覗いたり、ゲームセンターでキスをしているカップルを横目で見たりします。性に対しての興味を感じさせるんですね。

そうすると、アビーとの関係に性的なにおいを感じる。直接的なシーンはないんですが、オーウェンとアビーに恋愛感情というか性衝動が大きく関わっているように見えるんですね。

デートのシーンなんかも、思春期の男女がコソコソしているふうで、そうですねえ、やっぱり恋なんですよね。
モールス(Let Me In)オリジナルは、2人がもうちょっと幼いようにも見えて、ここまで恋愛っぽくなかったように思います。

恋愛っぽいのは、これはこれでよくて、オリジナルとリメイクとどっちがいい、とも言えない感じですね。

ただ、オーウェンに性的な意図があって覗きをするという受け取り方自体は間違っているのかもしれないです。カップル以外のことも覗くシーンがあるので、覗くというのは別の意味かもしれない。ここはちょっとわからないです。

例のシーンについて


モールス(Let Me In)日本公開版で最も問題になったぼかしのシーン。これについては、リメイクではそこだけすっぽり抜けています。着替えるシーン自体はありますが、例のシーンだけないんですね。これはいけない、これはダメです。

これでは、日本公開版のぼかしアリ以下で、まったくなんでもないシーンになってしまっているんですね。できないのは解るんです。しかたがないことなんです。ですが、残念でなりません。

全体的には物語を大きく変えてしまわず非常にうまくリメイクしていますし、オリジナルのよさを出来うる限りで殺さないよう留意しています。リスペクトが感じられます。
モールス(Let Me In)しかし、どうにもアメリカ映画だからできないことが多いように思います。そして、「アメリカ映画だから出来ない」ことは「オリジナルのもつ突出した長所」だったりするんです。

でも、これは言ってもどうにもならないことなので、ほんとに、言うのが間違っているんですよね…。

このリメイクはおそらく、外国語映画を字幕で見ることの出来ない(字幕が読めない)アメリカ人のためのものでもあるのでしょうから、意味がないリメイクとは言いません、リメイクしたこと自体を責めたりはしません。

わたしだってほんとは手放しで褒めたいんですよ、オリジナルがなければ…。

the right one=me?


モールス(Let Me In)オリジナルの原題は「Låt den rätte komma in」、英題はこれの直訳である「LET THE RIGHT ONE IN」です。リメイクは「LET ME IN」になっています。

これに関しては、リメイク版タイトルが発表になったときから疑問でした。the right one = me = ヴァンパイア、というのはおかしいのではないかと思っていたんです。
モールス(Let Me In)エリが正しい者、招き入れるべき者なのかどうか、オスカーがエリと共に生きる決断を下したのは、はたして正しかったのかどうかがあいまいなところが、オリジナルの良さでもあり、タイトルにもそれが現れていました。

しかし、the right one を me に変えると、アビーが正しい者かどうかという曖昧さはなくなり、正しさに関係なく私を受け入れよということになってしまうのです。
でもあとから考えれば、オーウェンの行く末も示されているし、例のシーンがないからアビーはもともとは女の子だし、全体的にわかりやすいはっきりした話になっているので、むしろこの内容にタイトルがあっているんじゃないのか? と思いましたね。

上にも書きましたが、全体的にはよく出来ているんです。オリジナルよりよくなっている部分もある。
けれども、小さなほつれから大きな穴まで足りないところが目についてしまい、ここが違う、あそこが違う、と粗探しのように見てしまったのもまた事実です。これが、オリジナルとはまったくかけ離れた映画になっていたとしたら、ふざけんなよ! でバッサリ終われるんですが、よいところもあるため、ぬぐいきれない違和感がこびりついてしまうんですね。

残念です、とは言いません。よく出来ています。オリジナルを見たことがなければ、もっと褒めていました。
これはリメイクであるがゆえの不幸であり、このリメイクが企画された時点で背負った宿命のようなものです。
しかたありません。

おまけ
オリジナルのエリとオスカーは今どんなふうになってるのかな〜と思って調べてみたら…。

Kåre Hedebrant
コーレ・ヘーデブラント

Lina Leandersson
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