パンドラムPANDORUM/2009年/アメリカ・ドイツ/クリスティアン・アルヴァルト
「誰が正しいのかわからない」を扱うことのむずかしさ。
西暦2174年、地球は滅亡の危機に瀕していた。人類は地球に似た環境の惑星タニスへの移住計画をすすめる。6万人の人間を運ぶ巨大な宇宙船の中で冷凍睡眠から目覚めたペイトン(デニス・クエイド)とバウアー(ベン・フォスター)だが、ふたりとも記憶をすっかり失っていた。なんだったっけ…と記憶をたどりながら宇宙船の中を探索しているうち、船内に不気味な生き物が住み着いていることを知るのだった。
わたしはどうも映画を見るときに、ジャンルによって点がからめになるときとあまめになるときがありまして、そのジャンルに関して詳しいからとかいうわけではないのですが、SFというジャンルにはどうもからいのです。ですから「パンドラム」に関してもからめの評価をくだしています。ちなみにコメディにはあまあまです。
この映画、わたしがものすごく好きな要素がはいっているんですね。それは『誰が正しいのかわからない混乱っぷり』です。もうこれはほんとうに大好きです。SF映画でこの要素が入っている映画はたくさんありますよね。「遊星からの物体X」とかね、名作がありますので、斬り込んでいくにはなかなかむつかしいと思うんです。しかも密室です。だだっ広いとはいえ、宇宙船の中だけで物語が進みます。
このふたつだけでじゅうぶんに映画が撮れると思うのですが、ここにさらにモンスターとアクションも入っています。好きなものばかりです。
ベン・フォスターはひとりで宇宙船内を探索します(デニス・クエイドは遠くの部屋にいて、無線で道を教えます)。わりとしょっぱなっから弱音を吐いたりして、情けない感じがとても良いです。すごいへたれなんです。心が弱ると嫁の白昼夢を見たりします。
ベトナム人(カン・リー)とドロドロの女の人(アンチュ・トラウェ)のふたりと出会います。このふたりはずっと前から宇宙船内をうろうろしていたようなので、あきらかにベン・フォスターよりも状況を把握しているんですが、ベン・フォスターはそんな二人にちょっといばったりして、そんなところもへたれです。
カン・リーは身軽なアクションがとても良かったです。ちょうがんばってた。わたしはカン・リーという人のことを全く知らなかったのですが、キックボクサーなんですね。
左の写真は、ベン・フォスターとアンチュ・トラウェが死体汁に浸かっているところです。このシーンだけでなく、やたらと役者がどろどろしたものにまみれたり、べちょべちょしたところを歩いたり、逆さ吊りにされたりと、ほんとにね、これはきつそうです。役者が大変そうなようすは見ていて好きです。血も流れますし汗をだらだらかいていたりして、どうも汁っけが多い映画です。
モンスターにアレされてしまった人です。ノーマン・リーダスです。「処刑人」です。
わたし、ベニチオ・デル・トロに「二日酔い」ってあだ名つけているんですけども、ノーマン・リーダスも二日酔いフェイスだと思ってます。いやそれはいいんですが、ノーマン・リーダスが出てきた時にね、あっこの人は生き残るよと思ったのです。だってノーマン・リーダスですからね。そしたらごらんの有様ですよ。
それでね、モンスターの造形が「ゴースト・オブ・マーズ」っぽいんですよね。身だけならそうでもないんですが、とげとげしたものをつけているんでね。
(「パンドラム」「ゴースト・オブ・マーズ」でのGoogle検索結果:約 930 件 あれ…)
トゲトゲしてますね。裸じゃないってことはそれなりに社会的というか、すくなくとも動物ではないということなんでしょうけれども、どうも行動は動物っぽいです。
鼻がもげて凶暴なゾンビになった「北斗の拳」の脇役というような見た目ですので、これはあれだなと、わりと早い段階で思うわけです。そうすると宇宙船内部の荒廃具合なんかも気になってきます。
一番好きなシーンは、パンドラムという病気、これは冷凍睡眠から目覚めてから記憶障害を起こし、妄想に取りつかれてしまうというおそろしい病気なのですが、これについての説明のシーンです。
以前別の宇宙船でパンドラムにかかったある乗組員が、宇宙船が呪われていると思い込んで、冷凍睡眠状態にある他の乗組員をぜんぶ強制脱出させてしまうんですね。5000人くらい。宇宙にぶわあーっと投げ出される大量のポッド。大惨事ですよ。あーあ、やっちゃった。
人生のうちでなにが一番おそろしいかというと、それはやはり取り返しの付かないことだと思うんですよね。
デニス・クエイドです。「エデンより彼方に」とか出てますけど、わたしにとっては「第5惑星」でエイリアンの子供を苦労して育てている人です(「第5惑星」めちゃめちゃおもしろいです)。
ベン・フォスターが汁まみれになりながらがんばっているとき、デニス・クエイドは部屋で煮詰まっていました。すごい狭いところからだんだん広いところへ出て行くベン・フォスターに対し、デニス・クエイドはいる場所こそひとつのところから変わらないものの、視野がどんどん狭くなっていきます。ぎゅうぎゅうです。
病気の説明をするのはデニス・クエイドなのです。余裕ぶって精神病の話をしていた人が精神的に追い詰められてしまうなんて、嫌な予感しかしない…と思っておりましたら、じつは何百年も前からすっかり頭がおかしくなっていたと、いうことなのでした。
絶望に打ちひしがれ、繰り返し繰り返し命をつないでいくうちに、自分は神だ! と思うようになってしまった、というのはとってもよくわかります。絶望から立ち直ろうとするには、あまりにも悲惨な状況でした。人が耐えられる限界を超えていると思います。
さて、好きな要素がたくさんある映画なのに、どうもいまいち乗りきれなかったのは、ひとつには、真相が語りですまされてしまうというところにあると思います。誰が正しいのかわからない恐ろしさを描いていますし、真相の語り手もすごい怪しいので、この人の言うことは正しくないかもしれないと疑ってたら、語られたとおりでした。
ただその一点だけでいまいちだなあと思ったわけではなく、語りですまされることが悪いと言いたいわけでもなく、途中で真相になんとなく気づいてしまったからというわけでもなく、そこに至る物語のこともいろいろと考えてみたのですが、どうも答えが出ませんでした。
先にも書きましたけれど、「誰が正しいのかわからない」という映画はやはり難しいと思うのです。特にこの映画のように、明確に『正しい人間』と『正しくない人間』がわかれているばあい、ラストがどんでん返し的になるのはしかたのないことです。そしてこの映画はとてもきれいに終わりますので、うまく落ちをつけましたね、という印象がどうしても残ってしまいます。
最後まで誰が正しいのかわかりませんでした、あなたはどう思いますか、と問いかけて終わるような映画のほうが、強くこころに残るような気もします。
ただ、そういう映画を『すっきりしない』と思う人がいるだろうというのもわかりますので、こういう言い方はあまり好きではないのですが、受け取り方は人それぞれというよりほかありません。
いいシーンあります、キャラクターもなかなかに良いです。アクションはちょうがんばってます、役者が大変そうです。モンスターがいきなり出てきたりしてヒヤッとして楽しいです。こう思い返すと好きなところばっかりで、なににどう文句をつけようかちょっと困っちゃうくらいです。別に文句つけたいわけでもないんですよ。SFだからからくするぜ、と意気込んでいるわけじゃないんです、そこは解って欲しいです。でもなんだろうこの、悪くないけど良くもないがどこがどうとも言えないもやもや感は…。中途半端な映画というわけでもないんですよ。アクションとサスペンスのバランスもよく取れていて、ほんとうまく出来ているんです。だからね、おすすめします、悪くないんですよ、悪いところあんまりないんですよ。
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by G-Tools , 2011/08/10